2016年12月14日水曜日

cheese curry

俺はいつも大学で一人だ
講義で彼(ウォーリー)が一緒の時は彼と一緒だけれど
それ以外は、一人だし、話すような人はいない
今日もそうだった、俺は一人で生協食堂で昼飯を食べた
本来頼もうと思っていたものがなかったので、迷った挙句チーズカレーを頼んだ
注文すると、パートのおばさんが手際よくカレーを盛り、その上に細く細かいチーズを、トングでふわっと乗せる
会計に持っていき、席を探して着席するまでにチーズは溶けていっていて
おいしそうな香りを放っていた
俺は今日も、壁に向かう席に着いた
後ろでは、色んな人が友達や知り合いと座って
きっと、いろんな話をしていた
俺は自分のチーズカレーを見つめた
このチーズカレーは、俺のためだけに温かいんだ
チーズや、ルー、ライスはそれぞれみんなのために作られたものだけど
今、この皿に盛られているのは俺のためだけのものなんだ
ライスは俺のために、上にルーを乗せてくれているし
チーズは俺のために、ルーの中に溶けていってるんだ
勿論わかってる、別に誰のチーズカレーでも同じことが起こってて、そもそもチーズが温かいルーに溶けていくのは誰のためでもないってこと
それでも、俺にはどうも、そう思えて仕方なかった
俺の皿に乗った細かいチーズの一つ一つが溶けていっているのを眺めているのは、俺だけなんだ
周りにいる大勢の人は、友達や話し相手が居ても、彼らのチーズが溶けていく様子をきっと、彼らは見逃したはずなんだ
そういう意味で、彼ら自体は孤独じゃなくても、溶けていく様子を一度も目撃されないチーズたちは孤独なんだ
だから俺は俺の皿のたくさんのチーズたちにこう、心の中で話しかけた
俺は君たちの味方だよって
君たちはいつも彼らに見逃されてきたかもしれないけれど、少なくとも俺は今、君たちを見ているよ、君たちの存在と、君たちの働きを俺はしっかり見ているよって
俺はそう思って、チーズの溶けたカレーライスを食べた
米粒も、多くの場合見落とされてきたかもしれない一粒すら残さず、全部食べた
おいしかった

美咲は俺のためだけに温かいチーズカレーでいてくれると思う
(でも実は、この例えが本当に適切なのかどうか、今の俺が精確に判断しているかあまり自信がないけど)
美咲が俺の皿のチーズカレーなら
俺はちゃんと、一粒残らず食べてあげるからね
心配しなくて大丈夫だよ
俺は自分の皿のチーズカレーだけで充分、幸せだから
みんなが見落とそうとも、俺だけがちゃんと見ているから
ちゃんと、味わってあげるから…


俺は自分が弱っていることを感じた
日常の動作の中で、なぜか手からものを落としてしまう
何故だかわからないけれど、時々手が、しっかり物を掴んでくれない
肉体的に弱ったということは、恐らくないのに
そして、幻覚というには大袈裟だが、なんだか気のせいが増えた
俺のセブンスターに、誰かが違うハッパを混ぜていなければいなければ、の話だけど
この間の黒い太陽のイメージは今でも強烈に、容易に思い出せる
俺を殺そうとしていると思った
今日も、まずバイトに行くとき
2本目の煙草に火を点け、ぷかぷかしているときだった
突如、白い雪の上に茶色い点が2つ、焦点の外に現れた
なんだろう、と思って目を向けると、それはふっと消えた
それだけだったから、気のせいだろうと思って、気にも留めなかった
帰り、またセブンスターを吸いながら歩いていたら、30mくらい先に猫が飛び出してきた
すると止まって、俺の方を、遠くからじっと見てるんだ
そして猫は少しずつ移動して、雪山の角に止まった
毛繕いをするように、猫は動いていた
そしてちょうど俺は、その猫がいるあたりまで来た
その時ようやく気付いた、
猫なんていなかったんだ
全て気のせいだった
猫が飛び出してきたところ、少しずつ移動していたところ、毛繕いをしていたところ
いなくなったわけでは確実にない、なぜなら俺はその猫をじっと見て、一度も目を離さなかったから
猫が止まったと思ったあたりには、ただ雪が盛り上がっていただけだった
でも俺は確実に見たんだ、何かが動いていた様子を
それから家に着くまでは、なんだかまだ自分が見られているという感覚だけが残っていて
通りすがる家の屋根から雪が落ちる音、風で木が揺れる音
すべてに神経が集中していた
きっと何も、何一つ、俺のことを見ているものはなかった
俺の気のせいだった
気のせいだったんだ

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