今までの間に多くの人が海に転落し、後続する船に拾われたり
あるいはそのまま流されて死んだりし、
また多くの者は別の船に乗り換えて、各々様々な目的地を目指していった
僕は海に振り落とされることなく船の甲板に辛うじてしがみ付いている
押し寄せる波は僕を飲み込もうとし、大した抗う術も持たない自分は一時しのぎの連続で耐えていた
今この瞬間もまたある者は海へ落ち、また別の者は自ら飛び込んでいっている
しかし一方で、流される心配のないよう船室に入っている者、
また豪華な船室で安逸を貪り、安寧の中で目的地への到着を待つ者もいる
流されまいと堪える僕の耳の奥底に響くのは多くの人々の声援と
そして脳裏に焼き付いているのは僕の成功を祈る人々の期待だ
僕は目的地にたどり着く自信もなく、方策など一つ持たずひたすらにその場をしのいだ
しかし僕は甲板にしがみ付くことに体力を使い果たし
遂に海へずるずると落ちてしまった
溺れていく自分、しかし今もなお頭に残る声援や期待
落ちた者を拾う船に助けを求めることはそれらを裏切ることを意味していた
僕は冷たい海から顔を出し、遠くに微かに見える目的地を目視する
そこまでの距離は軽く見積もっても、泳いで渡れる距離ではない
僕はある時、泳いで到達できるのではないかと自分に鞭を打ち
淡い希望を抱いて泳ぎ出したがやがて力尽きて、泳ぐことをやめた
そして僅かに、ほんの僅かに近付いた目的地を眺めて愕然とした
目的地と言われていたあの大陸は、まるで全くの更地ではないか?
その目的地はゴールなどではなかった
むしろ、その港から人々は歩いて本当のゴールを目指すのだった
真っ平らな港には既にそこに到着した人々の群れと、
そしてその遥かに薄っすらと山々の峰が見えている
僕は仮にその港へたどり着いたとしても、
その後しばらく平野を歩き、少しずつ山頂を目指して登っていくという体力を、
自分が残しているとは到底思えなかった
しかも現実を見てみれば僕は未だ海に漂っており、
その大陸の浅瀬まででさえ相当の距離を残しているのである
自分の体力が持たないということを確信すると、それはやがて気力を蝕み、
仄かに残っていた気力をことごとく諦めに変えてしまった
ああ、自分はどの道終わりだ
声もなく呟き、泳ぐことを完全に放棄して力を抜き海に身を任せた
ぷかぷかと浮かぶ身体は何もしなくとも海流に運ばれていく
最後の悪足掻きに出ようと思ったこともあったが、あらゆる努力は自分自身の諦めによって潰え、自分は怠惰にも流されていくだけの自堕落な藻屑と化していった
僕の船出を応援してくれていた人々、出航に期待を寄せていた人々は僕の安否を知らず
既に僕の乗っていない船に声援の電報やら贈り物やらが届き続けている
僕はそれを知りながら、彼らに自分がもう駄目であることを伝えられずに、
ただ自分の弱さと甘さを嘆いてばかりいた
しばらく海に流された頃、僕は自分が泳げなくなっていることはおろか、
腕や脚を思うままに動かすことさえできなくなっていることに気付いた
身体の軋むように冷たい海水の中で動く意思を持たなかった僕の四肢は、既に凍てついてしまったのである
一巻の終わりだ
これまでのあらゆる努力、甲板に必死で齧りついていた頃の奮闘を思い出す
しかしそれらのすべては今や徒労であり、結局自分のしてきたことは何もかも水泡に帰すと分かった
僕は今、麻痺した肉体を大海に浮かべ、朦朧とした意識の中で眼だけを見開いて大陸を見つめている
これは大海を知らぬ井の中の蛙が、妄想の中の大海に恐れをなして震え上がり、
やがて井戸水に溺れたようなものなのだろう
この先自分がどこへ流れ着くのか、あるいはそもそもどこかへ流れ着くのか僕には皆目見当が付いていない。
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